2008年12月16日火曜日

サブ・プライムとシステムの安定性

サブ・プライムから引き起こされたともいえる現在の未曽有の不況。しっかり理解したいと思っていたところ、良い本を見つけた。竹森俊平(2008)『資本主義は嫌いですか:それでもマネーは世界を動かす』日本経済新聞出版社。一言で言うと題名は最低だ。マネーにそもそも価値のないものに、バブル的な約束事で価値を作り、それと同じ原理で、世代間の資産移転を(年金など)をするところから話が始まるので、こんな題名が付いているのだろうが、本題は、その理解をもとにした、現代の金融システムの脆弱性(負の連鎖が爆発的に生まれる、金融派生商品、時価会計制度、金融マン達のインセンティブ構造)と、それを誘発した諸要因が、見事に、ジグゾー・パズルのように説き起こされる。 

2008年もいろいろないい本に巡り合えたが、この本は秀逸だ。簡単に言うと、1997年のアジア通貨危機以来、低所得国の経済成長がその国の中で、経済成長に見合う投資機会を見つけづ、金余りとなり、高所得国(アメリカのこと)に向かった。そこに、不動産価格への楽観店観測から、サブ・プライムで、通常ではリスクが高すぎる低所得者に、ローンを成立させ、そのローンを切り分け、切り分け、証券化し、金融機関を回りながら、投資機会を必要とする金が、ヘッジ・ファンドなどを介して結びついた。 

ここに、目先の利益を上げれば、巨万のボーナスが上がる昨今の銀行・証券のボーナス(インセンティブ構造)が結びつき、モラル・ハザードのネズミ講構造となった。いわゆるバブルがあっという間に膨らむような、金融界の構造が、21世紀の始まりに成立した。一方、金融機関間は、時価会計により、いったん価格が下がると、スパイラル式に、銀行間の流動性が低下し、それがさらに資産の価値を下げまくる仕組みもあった。 

すなわち、金余りが上にも下にも、極端に振れる構造と結びついたと理解できる。ヘッジ・ファンド国家のアイスランド、油に向かった投機など、昨今の現象がよく整理できた。 

システムのカオスの意味や、インセンティブ構造における、プリンシパル(所有者)とエージェントのことをすこし知っていたので、著者のシステムの安定性や、行動経済学的な議論も素直に入った。 

このプリンシパルとエージェントの理論。とてもお勧めな考え方だ。20年前にビジネス・スクールで、当時米国ではその分野の第一人者のDemskiというスタンフォード出身の教授に習ったのだが、それ以来の仕事で、常に応用可能な理論だった。なかなか哲学的な語り口で理解に苦労したが、そのかいがあったし、竹森氏の本にも出てきたことにも驚いた。 

この本の第二章は、2005年5月にワイオミング州の国立公園内の美しい街、ジャクソン・ホールで、グリーンスパンをたたえる形で開かれたシンポジウムの熱い議論も伝えている。結果としてはサブ・プライム問題を起こした金融技術と市場を擁護するラリー・サマーズなどのグリーンスパーン派に、今となっては先を見ていたかのように、金融システムに潜む問題を訴えた、シカゴ大学のラグー・ラジャンの孤軍奮闘ともいえる勇気ある警鐘が、ベアー・スターンズに対する、素早い対応、欧州における流動性確保のための各中央銀行の素早い対応につながった話は、さえない、日本の、“中央銀行家”たちには、しっかり読ませたいものだ。 

さて、現在の不況とそれを生んだ世界経済の構造が理解できた時点で、個人的には、どのようにカードを張るのか。今月はじっくりと、考えてみたい。 

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